魔轟三鉄傑のあゆみ⑨【決戦! 魔道城塞-後-】
果たしてそれは何度目の占領だったか。
ツィマオツィカ族が滅びた後、バラキーファは幾度となく心ない者たちの悪意にさらされた。
そのときも、多国家連合軍に大敗した、さる侵略軍の残党たちに立てこもられることとなった。
そんなとき--バラキーファを囲む連合軍に雇われて姿を現したのが、ルディオだった。
“あの城を落とすのだ”
連合軍の将軍から命令を受けたルディオは、しかし、気のないそぶりで肩をすくめた。
ルディオ
言って、さらりとバリスタを構えるや、
誰が止める間もなく、矢を放った。
それだけど、籠城は終わった。
ルディオが放った矢は、放物線を描いて飛び、城内唯一の井戸を直撃した。
矢はどろりと溶け、井戸水に強烈な苦みを与えた。
身体に害をなすような毒ではなかったが、とても飲めたものではなかった。
もともと追いつめられた敗残の兵である。
主要な水源を失い、すっかり心を折られた彼らは、早々に投降を申し出たのだった。
その結果を、ルディオは誇るでもなかった。
ルディオ
むしろ逆だ。
俺は城が好きなんだ。
だから、ああいうきれいな城を見ると、つい傷つけないよう落としたくなるのさ。
“城を落とす”ということだけにこだわり続けた、あきれるほど無骨な男の粋なふるまい。
シャティ
まちがいなく、落とされたのだ。
ルディオ・ディルという男の、その姿に。
地獄三十六歌仙
ようやく出番だなあ~~っ!
地獄三十六歌仙
下卑た声とともに、平原のあちこちで爆発が起こった。
上からの爆撃ではなかった。
地面が下から爆裂したのだ。
そして空いた穴から、次々と何かが這い出てくる。
ルディオ
穴から現れたのは、身体に機械を埋め込んだような、異様な風体の歌仙たちであった。
それが、蟻か何かのようにぞろぞろと外に出ては、ゆっくりルディオたちへにじり寄ってくる。
シャティ
ルディオをかばうように立つシャティへ、彼らはゲラゲラと嘲笑を浴びせた。
地獄三十六歌仙
でもぉ、お嬢ちゃんに何ができるのかな~!?
地獄三十六歌仙
てめーらなんかじゃどうにもならないぜーっ!
湧いて出る。次々と。
すでに100は越えているだろうに、まだ増える。
もはや周囲は完全に囲まれていた。
シャティ
自分のために戦ってくれている3人を。
その3人を助けるために戦いながら、自分のために憤ってくれている人を。
シャティ
魔道城塞の名が廃る!!
決死の覚悟を決めたとき。
メイフゥ
歌仙の細胞をクローニングして量産したものにサイバー仙骨を埋めた、擬似仙兵です。
ぽん、と右肩に手が置かれた。
トゥーラ
はっきりにおう、この気配……やはり、禁忌なる魔神の力を借りているね。
ぽん、と左肩に手が置かれた。
シャティ
トゥーラ
メイフゥ
烈風がほう奔った。
自分の両隣にいた女たちが、一瞬で敵陣へと突撃していったのだと、シャティは遅れて理解する。
トゥーラ
無数の刃を、トゥーラは放った。
扇状に散った刃は、聖なる風切り音を立ててバイオ歌仙たちに突き刺さり、清らかなる爆砕をもたらす。
トゥーラ
ス、と、トゥーラは天に指を向けた。
すべての刃がそれに従い、天に昇って、そのままぐるりと巨大な輪を描く。
ぽかんとそれを見上げる歌仙たちへ、トゥーラは厳かに告げた。
トゥーラ
宙に浮かんだ剣の輪が、陽光を受けて光り輝いた。
収束した陽光は、輪と同じ太さを持つ巨大な光の矢と化して、眼下の歌仙たちを瞬時に蒸発させた。
トゥーラ
降り注ぐ光のなかで、トゥーラは静かに、きびすを返した。
メイフゥ
魔神の力によって生み出された、あわれなるかりそめの者たち……。
メイフゥ
つぶやきながら、メイフゥは敵の群れの間を歩いていく。
ただ歩いているだけなのに、どんな攻撃も当たらない--かすりすらしない。
まるで揺らめく陽炎そのものであるかのように。
やがて、敵陣を抜けたメイフゥは、彼らに背を向けたまま、高らかに叫んだ。
メイフゥ
フェーゲフォイアー!
Fegefeuer
無数の火柱が立ち昇った。
歩き抜けたメイフゥの足跡--そのすべてから、天をも焦がす巨大な黒い火柱が屹立し、居並ぶ歌仙たちを瞬く間に焼き焦がしていく。
炎を背にしたメイフゥは、ぐるりと大きく鎌を振るい、すべてを呑み込む風を吹かせた。
メイフゥ
黒い火の粉と黒い灰。
鎌から生まれた冷たい風が、そのすべてを吹き払っていく。
そのさまを見つめながら、メイフゥは誰にともなくつぶやいた。
メイフゥ
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