魔轟三鉄傑のあゆみ④【初級 参戦! 流浪女神!】
たちまち、大乱闘が始まった。
椅子にテーブル、周囲の客--
障害物の多さをものともせず、リエンは店内を軽やかに跳ね回った。
しなやかな手つきで敵の一撃をさらりと払い、ほとんど同時に、流れるような蹴りを叩き込んで沈める。
防御の動作をそのまま反撃の一手となす、攻防一体、精妙巧緻の武技である。
歌仙たちは驚愕する間もなく倒れていく。
覚悟しなさい。徹底的に、破ってあげる。
リエンは余裕の笑みを浮かべ、ゆるりと、しかし隙のない構えを取った。
ダムザが呪文を唱えるや、足元の影から黒い魔鳥が飛び立った。
魔鳥は耳障りな雄叫びを上げてはばたき、一瞬にして歌仙たちの身を突き抜けていく。
貫いたのではない。
ただ突き抜けただけだった。
しかし、歌仙たちは一様に絶叫を上げ、ありもしない傷の痛みにのたうち回る。
いくら身を鍛えようと、心を鍛えねば意味がない。
潰した肝に銘じておくのだな。
ダムザはニヤリと笑い、次の術に移った。
突然のこむら返りに襲われて、歌仙たちが次々にその場に倒れる。
痛みを抑えようと、必死に足の親指を折り曲げる歌仙たちへ、ガトリンは、にこやかな笑顔と注射器とを同時に向けた。
ガトリン・チャンバー、ぞバースト!!
まったくさっぱりこれっぽっちの容赦もなく放たれた謎の液体が、床に転がる歌仙たちをぶっ飛ばした。
少女を守って戦う3人の力に、残る歌仙たちは、思わず後ずさる。
地獄三十六歌仙
いったい何者だ~っ!
巷でウワサのにくいヤツ、魔轟三鉄傑とは我らのこと!
地獄三十六歌仙
その叫びに、店内の男たちが次々と立ち上がった!
ガラの悪い男
ガラの悪い男
クケケケケーっ!!
面倒なことになったーっ!!
地獄三十六歌仙
今の時代、歌仙もロックに行かねえとなあ~~っ!
地獄三十六歌仙に加え、賞金首狙いの男たちが暴れ回り、店内はもはやめちゃくちゃである。
???
小さな悲鳴に、リエンは振り返った。
見ると、1人の歌仙が、あの少女を捕まえている!
地獄三十六歌仙
乱闘の際に本来の目的を果たすなんて、俺はなんてクールな野郎なんだぜーっ!
ちょっ、こらまちなさいあんた!
追いかけようとするリエンだが、金に目のくらんだ連中が次々と押し寄せ、それを許してくれない。
地獄三十六歌仙
少女を連れ、悠々と店を出ようとする男--
その東部を、店の奥から飛んだ何かが直撃した。
???
地獄三十六歌仙
男は一発で昏倒--
少女が、あわててその腕から逃れる。
これは……!
男の頭に当たって跳ね返った“それ”を、リエンは乱戦のなかでキャッチした。
これ、は……えっ……
なに……なにこれ。
???
これじゃあおちおち酒も呑んでられないよ。
店の奥から声がした。
すると、リエンのキャッチした光輪が、意思持つもののごとく、そちらへ飛んでいく。
その先には、女。
あでやかな手つきで光輪を受け取り、それを、そっと己の頭上に浮かせて、どこかふてぶてしい笑みを浮かべる。
地獄三十六歌仙
何者だーっ!
トゥーラ
しゃらり、と衣ずれの音を響かせて、女は優雅に脚を組み替えた。
トゥーラ
もとより、数こそ多いが大した敵ではなかった。
謎の女神トゥーラの加勢もあって、ノリで参加した賞金稼ぎたちは次々とノされ、床に転がっていく。
形勢不利と見た地獄三十六歌仙は、悔しげにうめきながら指で印を結んだ。
地獄三十六歌仙
覚えてやがれーっ!!
すると、倒れていた連中を含め、歌仙という歌仙が一瞬で姿を消してしまった。
なにいまの!?
ともあれ戦いは終わり、あとには荒れた店内と、目を回した賞金稼ぎたちが残った。
トゥーラ
迷惑料だ。取っときな。
さらりと言ったトゥーラが、店の奥で縮こまっていた店主に向けて、ピン、と何かきらめくものを指ではじく。
店主
これなら店を建て直してお釣りがくるぜーっ!
トゥーラ
いったい何が発端だったんだい?
そこな少女が連中に追われておってな。
ダムザの指差す先--
倒れたテーブルの奥から、少女が顔を出す。
???
わたし、シャティっていいます。
あいつらに捕まっていたんですけど、隙をついてどうにか逃げ出すことができて……。
シャティはうつむき、ぽろりと涙をこぼした。
シャティ
おうちに帰りたい……。
そして、そのまま、がくりと倒れてしまう。
ササッとガトリンが駆け寄り、診察を始めた。
とりあえず、お薬出しときましょうか。
なぜかようなやつばらに追われておるのか……。
ここはひとつ、地獄三十六歌仙をとっちめてやりましょう!
ぺちんってね、こうね、ぺちぺちーんってね!
ま、人さらいなんてするくらいだから、どうせ悪い連中なのは確定だし。
名を上げるにもいいかもね。
悪とわかれば話は早い。
3人は、ごくあっさりとうなずき合った。
そのさまに、トゥーラが面白そうに笑う。
トゥーラ
気に入ったよ。
あたしも手伝ってやろうじゃないか。
トゥーラ
あたしは地上を守るために天から降臨した女神だからね。
トゥーラ
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