魔轟三鉄傑のあゆみ⑦【封魔級 窮地! 契約絶対!】
例によって、バッカレイにナンデモゲロールを飲ませたところ、彼はへらへら笑いながら、目的を明かした。
バッカレイ
お城の魂。
バッカレイ
ある魔道民族が、技術の枠を凝らして造り上げた、難攻不落の戦闘城塞さ。
バッカレイ
全機能を解放できてないんだよね~今。
その話を聞いたシャティは、ぽかんと口を開け、目を瞬かせていた。
シャティ
“占拠された城から、魂だけとなって抜け出してきた”というのが正確なところか。
トゥーラ
メイフウ
私の後ろのガイコツくんもそうですが、本来、幻獣は己の意思を持って行動します。
だから自立行動ができるのです。
ね?
ガイコツくん
メイフウ
シャティ
よくわからないですけど……。
トゥーラ
そのせいで、記憶が混乱してるんだろうね。
そして、そのバラキーファこそが、シャティの本体と言うべき存在……。
一路、魔道城塞バラキーファを目指そうぞ!
バラキーファはツィマオツィカ平原にあるという。
一同は、そこを目指して旅を続け、途中で商業都市リポニーに立ち寄った。
ねー、まずはごはんにしよーよー。
ごはんごはん~。
トゥーラ
今のうちに今夜の宿を取って、そこで飯を食うとするか。
手近な宿屋に入り、部屋を確保してから、一階の食堂へ向かう。
適当なテーブルに着こうとしたとき、シャティが声を上げた。
シャティ
指差す先--男がひとり、テーブルに着いて食事を取っている。
トゥーラ
偶然とは思えぬな……
どれ、話を聞いてみるか。
一同が近づいていくのに気づいて、男--ルディオは怪訝そうに眉をひそめた。
ルディオ
俺に用か?
シャティ
この前は、その、助けていただいて……。
ルディオ
きにすんな。
もののついでさ。
おかげでわしらも助かった。
ルディオ
話は聞いてる。
地獄三十六歌仙と戦っているそうだな。
ルディオ
それに我慢ならんって連中は結構いてな。
ルディオ
あんたひょっとして、殺し屋かなんか?
ルディオ
俺は攻城屋--
つまりは城を落とす専門家さ。
ルディオはニヤリと笑った。
ルディオ
そんでもって城を陥落させるのが俺の仕事だ。
そして、攻城をなりわいとするおぬしが、こんなところにおるということは--
トゥーラ
ルディオ
この都市にいりゃあ、あんたたちが来るだろうから、合流してサポートするように、と頼まれていた。
ルディオ
実は最後の準備が必要なんだ。
ルディオ
俺の依頼人がこの都市に持ち込んだ代物--
バラキーファ攻略の最後の鍵がな。
昼食を取ったと、ルディオの案内で、都市の広場へと向かった。
そこには、みたこともない機械の乗り物があり、都市の人々が物珍しげな視線を送っている。
魔道翼とは、わしも初めて見る代物だ。
これが“鍵”なのか?
ルディオ
俺はバリスタでそれを援護する。
派手でいいわね。
名を上げるにはもってこいだわ。
不敵な笑みを浮かべ、ばきりと指を鳴らすリエンに、ルディオもにやっと笑いかける。
ルディオ
あのいけ好かない歌仙どもを黙らせてやってくれ。
シャティ
シャティが、おずおずと問いを発した。
シャティ
ルディオ
バラキーファってのは、きれいな城でな。
それを我が物顔であくどいことに使おうとするあいつらが気に食わない。
それだけの話さ。
その言葉に、シャティが、ハッとした顔を見せたとき--
???
叩きつけるような大音声が降り注いだ。
コン・センサス
ルディオ
いったいなんの権利があってだ。
コン・センサス
この広場の物は、すべてあたしの物として扱うように……ってね!
ほら契約書!
ルディオ
なに言ってんだ。
付き合ってられんぜ。
ルディオは顔をしかめ、魔道翼に触れる。
瞬間、ばちりと激しい電流がはじけ、後方へ弾き飛ばされた!
ルディオ
コン・センサス
誰もこの契約に反することはできないのよ!
高らかな叫びに、メイフゥが目を見開いた。
メイフゥ
あなたは--
……地獄三十六歌仙……!
メイフゥ
コン・センサス
面接会場から一緒だったじゃん。
なに忘れてんの?
メイフゥ
とっとと破ってあげるってーの!
リエンは旋風のごとき踏み込んでコン・センサスに肉薄し、問答無用の拳底を放った。
コン・センサス
打撃を受けたコン・センサスが、猛烈な勢いで吹き飛ばされていく。
ごろごろと激しく地面を転がりながら--
しかし彼女は、壮絶な笑みとともに、手にした契約書を掲げてみせた。
コン・センサス
契約書には、くっきりと赤い印が--
リエンの拇印が押されている!
なんという早業!
コン・センサス
契約は神聖、拇印は絶対!
拇印を押した以上、契約を破ることあたわず!
さあ、リエン・ユー、仲間を攻撃しなさい!
んあっ、うそっ、身体が勝手に!?
リエンは、くるりと仲間たちの方を振り向き、本気の構えを取って殴りかかっていく!
コン・センサス
さあ、仲間同士で戦うのね!
みんな、ごめん!
身体が言うことを……!
向かってくるリエンをガトリンの乱射が吹っ飛ばした。
ルディオ
だったらこいつでやってやる!
ルディオはバリスタを地面に設置すると、即座に矢を形成し、コン・センサスに狙いを定めた。
だが。
ルディオ
コン・センサス
そちらのおまえたちも契約済みなの。
ルディオ
拇印を押した覚えはないぞ!
コン・センサス
今日の行動を振り返ってみなさい。
言われて、一同、ちょっと考える。
シャティ
トゥーラ
メイフゥ
女神ずるし。塩辛ずるし。
トゥーラ
明日喰う?
メイフゥ
喰います喰いますー。
ふたりは、くるりとダムザを振り向いた。
トゥーラ
メイフゥ
では、うむ。
こほん。
あれが契約書であったのか!?
コン・センサス
コン・センサス
コン・センサス
“乙は甲に武器を振るうことができない”とね!
コン・センサス
契約はもうひとつ!
“乙は甲の攻撃を避けることができない”!
さあ喰らいなさい契約書ミサイルーーーー!!
無数の分厚い書類の束が、ルディオたちへ襲いかかる--
シャティ
青白い輝きが、そのすべてを弾き返した。
決然と前に出た少女--
シャティの身体から発した、堅牢無比なる壁となって。
コン・センサス
防いだだと!?
シャティ
輝きに包まれながら、シャティは毅然とコン・センサスを見据えて告げる。
シャティ
わたしは“城”!
みんなを守るために造られた--
魔道城塞バラキーファ!
シャティ
高らかなその宣言に、ルディオが驚きの顔を見せた。
ルディオ
コン・センサス
ならば別の契約で--
コン・センサスの取り出した契約書が、紅蓮の爆炎に吹き散らされる。
杖を振るってその術を放ったのは、誰あろう--鬼装妖幻術師ダムザ・イナ!
あとは我らに任せておけ。
コン・センサス
わしは常に、この魔力法衣にて己が肉体のすべてを覆っておる。
そして--この魔力法衣に指紋はない!!
作ろうと思えば作れるが、正直、容量の無駄というかな。
コン・センサス
契約を結べないなら、力で従えるまでよ!
ダムザは笑い、杖を構えた。
まこと、そのとおりよ。
契約とは、力の強弱にかかわらず、互いを尊重するために結ぶものゆえな。
その本義を理解せず、己の欲のためだけに法と力を利用する--
その罪示す烙印を、うぬが骨身に刻んでくれる!
ダムザの放った、嵐めく爆炎の弾丸たちが、コン・センサスの契約書を爆ぜ散らしていく。
コン・センサス
契約書がぁ~~!!
よよよと泣き崩れるコン・センサス。
同時に、リエンの身体にかかっていた圧力がフッと消えた。
メイフゥ
私が掃除すればなんとかならないこともなかったのですが、まあ出るまでもありませんでしたね。
トゥーラ
おぬし、バラキーファとしての記憶を取り戻したのか?
シャティ
シャティは、こくりとうなずいた。
シャティ
これまでのあなたがたの推測は、おおむね当たっています。
記憶を取り戻したためだろうか。
おどおどとした雰囲気が消え、どこか威厳さえ感じさせる口調となっている。
シャティ
シャティ
シャティ
シャティ
何度も戦いが起こったので、やがて各国は、バラキーファに軍を派遣しないと誓う、ツィマオツィカ条約を結んだんですけど--
シャティ
ルディオ
それを口実にバラキーファを手に入れるつもりじゃないかって他国に疑われるからな。
シャティ
バラキーファという条約上の聖域に立てこもり、他国への侵略を行うつもりなんです。
シャティ
みんなを守るための城なのに、自分の力がみんなを不幸にするなんて……。
力強い言葉に、シャティは顔を上げる。
その瞳をしっかりと見返し、リエンはうなずいた。
あたしね、そういう卑怯な連中がいっちばん許せないの。
世の国々の奴らが止めえられぬと言うなら、我らが人肌脱ぐしかあるまい。
我ら魔轟三鉄傑の、“遠縁の誓い”ですね!
3人の言葉に、シャティは目をうるませた。
シャティ
トゥーラ
女神として、あんたたちのことは忘れないよ。
メイフゥ
あ、散るときは後を濁さないようにお願いします。
跡形もなく爆散するとかそんな感じで。
ともあれ。
決意を新たに、彼らは彼方なる城塞の方角へ向き直った。
魔道城塞バラキーファへ!!
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