魔轟三鉄傑のあゆみ⑤【中級 対決! 外道大臣!】
シャティ
どこかのお城だったと思うんだけど……。
トゥーラ
この近くに、外道大臣ゲスタイガーの城があるね。
デスだけを集めてパーティを開いてるって話さ。
ものすごーくどっかできいたような名前ー……。
さにあらずとも、手がかりぐらいは得られよう。
ぞぞ!
トゥーラ
女神がゲスの真似事をしたってんじゃ、コケンに関わるしね。
リエンたちはさっそく、外道大臣ゲスタイガーの居城へと向かった。
城の前には、いかにもな人相の門番がおり、登城する者たちを検分している……。
門番
この城にゃあゲスしか入れねーぜーっ!!
ここか~い、ゲスパーティの会場は~~っ!
どんなゲスがおるか、楽しみじゃのう~~っ!!
門番
てめーらなかなかのゲス笑いじゃねえか~~っ!
よ~~し、通っていいぞーーっ!!
門番
“失礼します”なんてよぉーーっ、
どーにもゲスらしくねーなぁ~~~っ!
門番
あたしは弱い者イジメが大好きな、悪い女だよ~~っ!
門番
能あるゲスは爪を隠すってかーっ!
よ~~し、通れ~~~~っ!!
そんな感じで城に入った。
城内のホールには、思い思いの正装に身を包んだゲスたちが集まり、楽しげに談笑している。
何か情報は得られぬものかと、ゲスなゲストたちの会話を立ち聞きしてみると……。
ゲスなゲスト
先日、たーくの主人は、わざと馬車にぶつかって、骨が折れたと慰謝料を請求したんでゲスのよ~!
ゲスなゲスト
こんな場所、一刻も早く立ち去りたいでゲスねえ~~っ!
良いことを聞いた。
主催の外道大臣ゲスタイガーが、置くの部屋で休んでおるそうだ。
よし、行ってみるわよ!
3人はゲスタイガーの部屋へと向かい、並び立つ守衛たちに頭を下げる。
ちょいとゲスタイガーさまにごあいさつをさせていただきとうございますぜーっ!
サクサク通ろうとしたが、守衛たちは鋭く目を光らせて武器を構える。
守衛
てめーらーっ、生粋のゲスじゃねえなあ~~っ!?
守衛
やっぱプロの目はごまかせませんねー。
強行突破じゃー!
守衛たちを蹴散らし、奥の部屋へと突入する。
宴の証か、飲み干された酒瓶や、乱暴に喰い捨てられた食べ物が、部屋中に散らばっている。
その中心で、やはり妙に見覚えのある亜人が、優雅にワインをたしなんでいた。
侵入者がいると聞いたので誰かと思えば、名高い名高い魔轟三鉄傑ではないか!
……よね、どーせ。
我輩こそ外道大臣ゲスタイガー!!
計画が台無しじゃい!!
かの悪行、うぬも一枚噛んでおったか!
いずれ貴様らを始末するべく雇っておいた“掃除屋”の出番が早くも来たわ!!
お願いします!!
???
ゲスタイガーがパッと腕を振るうと、部屋の奥で、ゆらりと影が立ち上がった。
禍々しい骸骨を背後に控えさせた、黒衣の女である。
ゆらり。ゆらり。
黒く澱んだ陽炎とでも形容すべき異様な足取りで、ゆっくりと歩みを進めてくる。
その不気味さに--
そして、それ以上に恐るべき魔力の気配に、リエンの背筋がぞっと凍った。
あとあの後ろのガイコツなに!?
己が魔力を具現化し、自立させたものだ!
類まれなる使い手たる証……心せよ!
???
女は、月を食む夜間のごとき冷たく妖しい笑みを浮かべ--
手にした鎌で、床に散らばった酒瓶やら菓子くずやらをサッサッと集め始めた。
???
ダメですよ~、
パーティだからってハメ外しすぎたら。
???
あの。何してんすか。
メイフウ
私、“掃除屋”って言ったじゃないですか。
文字通り系?
比喩とか、そういうアレじゃないの?
観念しなさい、ゲスタイガー!
我輩とて地獄三十六歌仙がひとり!
やったるわい!
見せてくれよう我が暗黒超仙術!
ゲスフィーーーーるどッ!!
ゲスタイガーの身体から魔力の波動が放たれた。
それはたちまち部屋中を席巻し、リエンたちにずしりとのしかかる。
いきなり身体が重く……!?
いったいいかなる力が働いておるのだ!?
我らゲスに、崇高な志などはない。
欲のままに行き、他者を蹴落とすが本性ッ!
“崇高な志”を抱く者あらば、その“重み”を物理的な重みへと変えて動きを封じるのだァーッ!
思い!重すぎるゥ!
慈悲の心を世に広めんとする志が、
ア、鋼の重さでのしかかるぅーーーーッ!!
これぞゲスの仙ロードを極めしゲス魔の仙術!
魔轟三鉄傑よ、無駄に重い志を抱いたまま死ねぇーーいっ!
メイフウ
黒い炎が、部屋を満たした。
雄叫びを上げる黒炎。
ひとかけらの熱さえ持たず、むしろ心胆を凍てつかせる冷たさに満ちたそれが、瞬く間に部屋を舐め尽くす。
重さがなくなった。
リエンは、きょとんと自らの身体を見下ろした。
炎は何も焼き焦がすことなく消えていた。
ゲスタイガーによってもたらされた、魔性の重みとともに。
我が仙術が!
メイフウ
させていただきました。
静かな声が、その場の全員を振り向かせる。
“掃除屋”メイフウ--彼女は、驚くほどまっすぐな眼差しをゲスタイガーに向け、つぶやいた。
メイフウ
外道大臣ゲスタイガー……まさか、あなたがそんなゲスであったとは……。
メイフウが、ゆるりと鎌を持ち上げる。
あわせて、背後の骸骨がカタカタと笑った。
メイフウ
“掃除屋”メイフウ。
旅の掃除屋とは、世を忍ぶ仮の姿……
世のゴミを掃除することこそが真のなりわい!
そいうアレではあるの?
メイフウ
あなたもきれいにして差し上げます!
かくなる上は最終兵器!
魔轟三鉄傑、そして“掃除屋”メイフウの猛攻を受けたゲスタイガーは、ボロボロになりつつも、部屋からホールへ飛び出した。
ゲス
そのへんのゲスをゲス質に!
このゲスの命が惜しければ武器を捨てろー!
なんとでも言えー!
勝てば官軍、出世もグン☆グン!
ゲス
知り合いからだまし取った土地の権利書あげるから!!
メイフウが、唇を噛みながら鎌を捨てた。
メイフウ
トゥーラ
おなか空いてないかい、シャティ。
シャティ
そろそろお夕食、作りましょうか。
ふたりが、野営の準備を始めようとしたとき。
イール
その少女、頂戴いたす!
草むらから現れた歌仙が、手にしたウナギを長く伸ばしてシャティを捕獲した!
シャティ
トゥーラ
イール
フフフ、我がウナギはぬめる、ぬめるぞぉ?
トゥーラ
イール
このまま退散させてもらう。
ウナギのごとく、ぬめぬめとなあ!
一条の閃光が、闇を裂いた。
それはイールの手から伸びたウナギにブチ当たり、たやすく引きちぎっていく。
イール
俺のウナギがぁ!
???
駆け抜けた光を追うように、闇の奥から、のそりと男が現われた。
巨大な弓を担いだまま、ゆっくりと歩を進め--それこそ矢のような鋭い視線で、じろりとイールを睨みつける。
???
イール
ぬめぬめと逃げていくイールに目もくれず、男は、ドン、と大弓を地面に下ろした。
そして、ゲスタイガーの城を見上げ、大弓--バリスタの角度を調整していく。
???
赤と青、どっちが好きだ?
唐突な質問。
男の後ろでちぎれたウナギをほどいていたシャティが、目をぱちくりさせた。
シャティ
あ、青……かな。
???
男はうなずき、弓を撫でた。
すると、彼自身の魔力が集い、大きな青い矢を形成する。
それを大弓につがえ、機械式の弦を引き--
無言のまま、あっさりと放った。
轟音と衝撃が、城を揺らした。
な、なんなのよ!?
壁を突き破って飛来した大きな矢が、リエンらとゲスタイガーの間を貫き、太い柱に突き刺さって止まる。
次の瞬間、その矢がバラリと崩れ、なかから大量の金貨が転がり落ちた。
ザックザクだーい!
ゲスタイガーは思わずゲス質を放り出し、金貨の海へとダイブする。
リエンはその後頭部へ鋭い飛び蹴りを叩き込んだ。
ゲスタイガーは頭から金貨に突っ込み、そのままガクリと倒れ伏す。
ゲス
あ、これ権利書です。
つーか持ち主に返してきなさい!
しっしっとゲスを追っ払っていると、メイフウがにこやかに近づいてくる。
メイフウ
あいつの仙術、どうやって破ったの?
メイフウ
もとは私も地獄三十六歌仙がひとりゆえ……。
メイフウ
やるころなすことあくどいのと、音楽性の違いから袂を分かちましたが。
あとあんたの音楽性どこよ!?
???
トゥーラ
???
ゲスの目を眩ませる効果がある。
男は興味なさそうに告げると、大弓を担いで歩きだす。
シャティ
その背に、シャティが声をかけた。
シャティ
ルディオ
振り向きもせずに答え、彼は闇夜に消えていった。
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